[note: Fabric掲載]グローバルとローカルが織りなす新しい循環経済
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グローバルとローカルが織りなす新しい循環経済
こんにちは、Fabricです!
台風の影響で雨が続いていますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
本日、弊社のLinkedInに掲載された記事をnoteにも転載しました。
サーキュラーエコノミーのビジネスモデルについて、実際の事例や私たちの視点を交えてご紹介しています。
「外に出られないし、今日はちょっと学びの時間にしようかな?」
そんな方にぜひ読んでいただきたい内容です。
どうぞご覧ください!
※ヘッダー写真の陶芸作品クレジット: Kazuhiko Satoh 佐藤和彦; Tamotsu Suzuki すずきたもつ
目次
ChopValueの成功にみるサーキュラーエコノミーを実現させる新たなビジネスモデルの可能性
都市で資源を「収穫」する、新しいものづくり
日本第一号マイクロファクトリー、川崎に誕生
空間に物語を添える、割り箸の木目
大量生産とクラフト、その間にある新しい価値
ChopValueの成功にみるサーキュラーエコノミーを実現させる新たなビジネスモデルの可能性
近年、持続可能性への関心の高まりとともに、サーキュラーエコノミーの実践に取り組む企業が急速に増えています。Fabricがこうした企業の変革をご支援する中で、頻繁に聞かれる問いがあります。「どこで、どのように始めるか」。
この課題の背景にあるのは、長年にわたって築かれてきた大量生産・大量消費を前提としたビジネスモデルです。日本では素材別には高いリサイクル率を誇る分野もある一方で、全体的な一般廃棄物のリサイクル率は19.5%に留まり、過去10年間横ばいが続いています。
大量生産モデルがサーキュラービジネスと両立しづらい理由は、①輸送コストの問題—地域で発生した廃棄物を遠方の工場に運んで処理し、再び製品として各地に輸送するコストが新品製造を上回ること、②システムの硬直性—標準化と規模の経済を前提とした大量生産では、地域ごとに異なる廃棄物の種類や量に柔軟に対応することが困難なこと、③サプライチェーンの複雑性—集中型生産による長大なサプライチェーンが、逆方向の物流(廃棄物回収)にとって大きな障壁となることなどが挙げられます。
そして今、従来の大量生産・大量消費に対するカウンターアプローチとして、地域密着型の小規模工場(マイクロファクトリー)、場所に根ざした(プレースベース)ものづくり、都市での資源収穫(アーバン・ハーベスティング)に注目が集まっています。
その特徴は、郊外の大規模工場で大量生産した製品を世界展開する従来の構造から脱却し、都会にある地域密着型の小規模工場で循環型のものづくりを実践し、そのモデルを世界にフランチャイズ展開するというもの。
そんなことが本当に可能なのでしょうか?
答えは、YESです。
私たちFabricは、このアプローチを実践し世界9か国で事業を展開するカナダ発の革新的企業ChopValueとの出会いを通じ、従来の大量生産モデルの課題を解決し、真のサーキュラービジネスを実現する新しい経済モデルを目の当たりにしました。
ここでは、一本の割り箸から世界的なビジネスモデルを実現している彼らのアプローチをご紹介しながら、都市をベースとする新しいものづくりと循環システムの可能性を探ります。
都市で資源を「収穫」する、新しいものづくり
2016年、カナダ・バンクーバーで誕生したChopValueは、使用済み割り箸を回収し、耐久性の高いボード素材や家具に再生する“循環型製造企業”です。
特徴的なのは、「アーバン・ハーベスティング(都市で資源を収穫する)」と呼ばれるアプローチ。地域内で回収した資源を、その地域で製品化しています。集中型の大工場ではなく、地域ごとに設置する小規模工場「マイクロファクトリー」で加工を行い、輸送による環境負荷を削減しながら、地域ごとの文化や需要に沿った製造を行っています。小さなタイルを組み合わせて大きな製品を作る「モジュール設計」を採用しており、この方法によって廃棄物を最小限に抑え、使用済み割り箸を無駄なく有効活用しています。
ChopValueはこの「循環型ビジネスの仕組み」をフランチャイズとして確立し、世界9か国で展開しています。現在、80以上のマイクロファクトリーが契約済みまたは開発段階にあり、2025年4月時点で累計2億本以上の割り箸をアップサイクルしています。

日本第一号マイクロファクトリー、川崎に誕生
昨年設立された日本法人は、今年春に神奈川県川崎市で、日本初となるマイクロファクトリーの稼働を開始しました。川崎が選ばれた理由は、「ものづくりのまち」である歴史と、多様な文化を受け入れてきた気質にあるそう。元・鉄製品の工場をリノベーションした小さな工場では、環境に優しいソリューションを提供するために、地元企業とも連携し、回収した割り箸の滅菌から圧縮までの製品化全工程を6〜7人程度のスタッフで完結しています。
空間に物語を添える、割り箸の木目
ChopValueの製品は、環境配慮だけでなく、デザイン性や耐久性でも高く評価されています。割り箸断面の木目模様が印象的な家具や建材は、飲食店やホテル、オフィス、公共施設にまで多様な場所で採用されています。
導入事例には、シェラトン・ホテルズ&リゾーツやケンタッキーフライドチキンといったグローバルチェーンのインテリア、バンクーバー国際空港、直近では「再生」をコンセプトにした大阪・関西万博のカナダパビリオンでAir Canadaが展開する「デスティネーション・プーティン・バイ・エア・カナダ」向けインテリア家具や会議テーブルなどがあります。
日本ではまず、企業向けに家具やインテリア商材を展開する予定とのこと。たとえば丸亀製麺とは、川崎市内の5店舗で使用済み割り箸を回収して新しい製品に変え、地域内での資源循環を実現するための共同研究が進んでいます。同じく大手文具・オフィス家具メーカーのコクヨとの共同開発も進行中です。
建築やインテリアにおいて、「素材の来歴を語れること」は空間の価値を高める要素のひとつ。ChopValueの製品は、素材自体は大量生産品でありながら、回収から加工までが生活圏で完結することで、その背景が明確になり、持つことの意味が生まれます。そうして完成した家具は、単なる機能を超え、空間に物語を添える存在となり得ます。
大量生産とクラフト、その間にある新しい価値
中目黒にあるFabricのスタジオで運営されているアートスペース「Under the Tracks(アンダー・ザ・トラックス)」でも、陶芸作家の展示什器として、ChopValueの家具を採用しています。
土という原始的素材と作家の精神性・技術によって生まれた陶芸作品と、大量生産品の割り箸を素材としながらマイクロファクトリーで人の手によって再生された家具──。この二つが同じ空間で対比されることで、現代の「ものづくり」について、自然と考えさせられる展示空間が生まれました。
プレースベースなアプローチがもたらす、サーキュラービジネスの実践解
ChopValueの事例は、冒頭で提起した「どこで、どのように始めればよいのか」という企業共通の問いに対する明確な答えを示しています。
従来の大量生産モデルが抱える①輸送コストの問題は、地域内での資源回収・製品化により解決され、②システムの硬直性は、各地のマイクロファクトリーが地域特性に応じて柔軟に対応することで克服され、③サプライチェーンの複雑性は、「アーバン・ハーベスティング」による短距離循環によって単純化されています。
さらに重要なのは、このアプローチがスケーラブルであることです。一つひとつは小さなマイクロファクトリーでありながら、フランチャイズモデルによって世界規模での展開を実現している点は、「ローカルな実践とグローバルな視点の融合」という新しい経済モデルの可能性を物語っています。
ChopValueの成功は、割り箸以外の都市廃棄物への応用可能性も示唆します。繊維材、竹材、古紙、廃プラスチック、食品残渣──都市には、まだ活用されていない資源があふれています。それらを地域のマイクロファクトリーで再生できれば、限られた地球資源への負担を軽減しながら、都市全体が巨大な循環システムとなり、新しい雇用、製品、価値が生まれます。
私たちFabricとChopValueが目指すのは、こうした新しい経済モデルや素材循環を通じて、地域と素材のつながりを大切にし、暮らしの中に静かな喜びをもたらす循環文化を育てていくことです。
自分が食事で使った割り箸が、地域の工房で家具に生まれ変わり、近所のカフェやオフィスで再び出会う。その小さな循環の中に、サーキュラービジネス実践への確かな道筋と、持続可能で豊かな関係性を見いだせるのではないでしょうか。